読めば読むほど、現代的!
日野啓三、私が好きな作家のひとりです。でも、なかなか読む人が周りにいません(泣)。『1Q84』(村上春樹)や『マチネの終わりに』(平野啓一郎)、あるいはちょっと昔の『潮騒』(三島由紀夫)なら、詳しくは語らなくても知ってる!となるのに、日野さんは書店の店員さんに聞いても「どなたでしたっけ?」とまさに四面楚歌。。でも一度は手にとっていただきたい作品の数々です。
『夢の島』あらすじ
その中から、最近読んだ『夢の島』について。あらすじとしては、境昭三というもう若くはないがこれまで東京に多数の高層ビルを建設し、都市の発展に貢献してきたことに疑いを持ってこなかった男が主人公。ある日いつもと同じ生活を送っている主人公がふと目をやると、敗戦直後の風景が街中にくっきりと現れていることに気がつく。それは彼にしか見えていないようでただ気がつくと消えていた遠い昔の学生時代の風景。「意識が変わり始めるとき(良く変わることも悪く変わることもある)、それに対応する何らかの出来事が必ず起こるものだ。まずはほんの偶然の、取るに足らないような形で。」(文庫版1ページ)。その出来事がきっかけで主人公は意識の底深くを刺激されたような不思議な感覚を覚えることに。そして、その意識の赴くまま、気がつけば「夢の島」と称される東京湾埋め立て地域に心が惹かれ、休日など空いた時間はそこに赴くようになる。主人公は、これまで強固であると信じ疑いを持ってこなかった自分の人生やこの世界そのものについて、少しずつ多層的であることに気がつくように。ただ日常生活を否定するものではなく、「意志的ではなく生命的でさえもない無機物も含めた自然そものの力」(32ページ)が東京を発展させ、そして自分もその力の一部に過ぎなかったことを自覚していくようになる。そんな主人公の周りには「夢の島」を高速で走り抜けるバイクの女性と、マネキンによるショーウィンドウ作りを生業とする女性が現れ、この”二人”の女性に主人公は導かれ、そして、、、といった内容です。
“風の時代”を予言!?
この作品、一番のオススメは”現代性”(^o^) そう、作品の一文一文が今の時代を的確に表現しているかのよう。”風の時代”として、これまで以上に”根”を持たないような生活様式、あるいは”根”を貼ることができる土地を自分自身で見つけることができるようなそんな生活様式。小説はまさにそのような時代が訪れることを予想して書かれているかのようです(1982年の作品)。
そして自分の中から力が溢れてくるのではなくて、外からの力が自由に自分の中を通り抜けていく、そんな感じだった。それは通り抜けられながら自分の何かを壊してゆく。それは間違いない。だが自分をつくっている筋と体液と切れ切れの記憶、それらとぶつかりながらかすかに光のようなものを発するのが感じられる。弾けるものの光、腐るものの熱。
「夢の島』文庫版150ページより
本日も読んでいただき、ありがとうございました🙌